野球論

盗塁成功は、相手のエラーである

こんにちは、タッツ(@tatsuvish222)です。
今回は盗塁の駆け引きについて書いていきます。

前に「足にスランプはない」わけがないというタイトルでブログを書き、その中でちょっとした原因で足は遅くなると結論付けました。
これが盗塁にどう影響するのか見ていきましょう。

盗塁時のランナーの走行距離

まず、1塁と2塁の塁間距離は27.431mと規定されています。
走者はそこからリードを取るのですが、その距離は約3mと言われています(こちらの記事を参照)。
つまり、盗塁の際に走者が走る距離は約24mとなります。

50m走のタイムの考え方

よく選手の紹介で50m走のタイムが示されますが、盗塁における走行距離が約24mであるためこのタイムを半分にすればいいと考えることは誰でもできるでしょう。
しかしながら人間はずっと同じスピードで走ることはできません。トップスピードで走るためには加速が必要であり、そのため後半の方が速くなります。

したがって50m走のタイムを基準にするにしても、そのタイムの半分よりは遅くなると考えることができます。
陸上の100m走について研究されているこちらの記事では、人間がトップスピードに乗るまでには6~7秒かかることが言及されています。つまり、走者は塁間でトップスピードが出ることはないのです。

投球開始から2塁到達までのタイム

ロッテで正捕手として活躍した里崎智也氏は日刊スポーツのコラム「二塁盗塁されるのは誰のせい?」の中で具体的なタイムを示しています。
里崎氏によると投手のクイックは1.25秒、捕手の2塁送球は1.95秒でその合計は3.2秒となります。つまり走者はこれを上回るタイムを出さなければなりません。

加えて先に指摘した通り走者は塁間でトップスピードを出すことはできませんから、1m短いとはいえ塁間の約24mで50m走の半分のタイムを出すことは難しいでしょう。

このタイムをクリアできるのは…

これらの要素を加味すると、50mを6.0秒で走る選手が果たして塁間3.2秒をクリアできるのかという疑問が上がります。

スポーツ選手や芸能人などの50m走のタイムをまとめたこちらの記事によると、田中広輔選手(広島)が6.0秒だそうです(その上に松山竜平も6.0秒と記録されていて、本当かよって思いますがw)。
田中選手は2017年には35盗塁を記録し盗塁王に輝くなど俊足で有名ですが、1番打者に定着した2016年から3年連続で盗塁失敗が2桁を数えています

一方球界を代表する走者と比べてみると、レギュラーに定着した2014年から5年連続30盗塁をクリアしている西川遥輝選手(日本ハム)は5.8秒、現役で最高の盗塁成功率を誇る荻野貴司選手(ロッテ)は5.6秒と記録されています。

高い確率で盗塁を成功させるには、50m走で5秒台を出しておきたいですね。

盗塁成功率を考える

先に例示した田中選手の盗塁成功率は
2016年 .596(成功28)
2017年 .729(成功35)
2018年 .711(成功32)
でした。この数字を、読者の皆さんはどう感じるでしょうか。

これだけだと、田中選手は2017年と2018年は高い盗塁成功率を記録したと結論付けられるかもしれません。ではこの数字をひっくり返して盗塁失敗率で見てみましょう。
2016年 .404(47企画19失敗)
2017年 .271(48企画13失敗)
2018年 .289(45企画13失敗)

サンプル数といい出てきた数字といい、何かに近いものを感じませんか?
そう、得点圏打率です。
田中選手の盗塁失敗率がもし得点圏打率だとしたら、得点圏の田中選手は期待できると思いませんか。
筆者の中ではこの数字を、田中選手は得点圏でヒットを打つように盗塁を失敗していると解釈します。

では比較として例示した西川選手や荻野選手はどうでしょうか。
両選手ともキャリアが長いので通算成績で算出しますが、BASEBALLKING出典のこちらの記事によると西川選手の通算成功率は.858、荻野選手は.879となっています(2018年の記事であることをご了承ください)。

この数字をひっくり返すと西川選手の盗塁失敗率は.142、荻野選手は.121となります。これが得点圏打率だとしたら、この数字の選手にはまず期待はできないでしょう。
つまり、西川選手や荻野選手レベルになって盗塁の失敗は期待できないとなるのです。

攻撃における盗塁が持つ意味

ここまでで、盗塁を決めることは簡単ではないと分かったのではないでしょうか。
ではここで、盗塁という作戦について考えていきましょう。

盗塁は成功すればほぼ無償で先の塁にいけてしまう非常に便利な作戦なのは言うまでもないでしょう。通常は走者を進めるために送りバントや進塁打など相手にアウトを献上していますから、成功すればアウトカウントを増やさずに走者が進む盗塁の持つ意味は大きいです。

しかし、失敗したら…というリスクマネジメントに欠けているのが現状の日本球界における盗塁の考え方です。
失敗した場合、無償で相手にアウトを献上することになります。

アウトは1イニングで3つしかないですから、簡単にアウトを献上する、ましてせっかく出した走者がアウトになるなんて攻撃における最大のミスといっていいでしょう。そもそも盗塁は、「アウトをあげずに走者を進められないか」という観点から生まれた作戦ではないでしょうか。
それが今では「盗塁死はOK」という風潮になっていることに疑問を感じられずにはいられません。

西川選手や荻野選手のような高い確率で盗塁を決められる走者や、あるいは相手バッテリーに警戒感が薄くクイックが遅いなどの要素があれば、無償で次の塁へ進める盗塁は奨励される作戦です。
しかし田中選手のように脚は速いけどそれなりに失敗するような走者がしっかり相手に警戒されているとしたら、闇雲に仕掛けていくべきではないでしょう。

よって、盗塁は相手や局面による見極めが重要な作戦であると結論付けます。

まとめ

・走者は塁間をトップスピードでは走れない
・高い確率で盗塁を成功させるには、50m5秒台で走りたい
・盗塁失敗率を得点圏打率に置き換えると、その走者の期待感がわかる
・闇雲な盗塁はやめよう

2018年の日本シリーズでは、広島が8盗塁死を記録しシリーズの流れを決定づけてしまいました。
相手捕手の甲斐拓也選手(ソフトバンク)の昨シーズンの盗塁阻止率は.447であり、この結果は戦前から予想できたものでした。
10年前と比べても捕手のスローイングは目覚ましく向上しており、盗塁を高い確率で決めることができるのは本当に限られた走者のみとなり、もはや盗塁成功は相手のエラーであるとさえ言える状況となりました。

現代野球は捕手の技術進歩を受け入れきれていないように感じます。
今一度、野球人としての価値観をアップデートしなければならない時がきているのでしょう。